Skander Manaa
フィルム写真とは、なんと浪費的行為なんだろう。
36枚撮りのフィルムを装填し、構え、シャッターを切る。
祈りは捧げられ、しかし聞き届けられるとは限らない。
暗室ではすべてが明らかになる。
失敗はつきものだ、特にアマチュアであればなおさらのこと。
では、こうして人生の中で撮りためた何十、何百、何千という“非写真”たちはどうなるのだろう?
それらは、クラウドのゴミ箱やネガフォルダ、古びたハードドライブの中で朽ちていく。
彼らの罪は、「役に立たないこと」。
その存在自体が、生産性という神聖な概念への反逆なのだ。
けれど、もしそれらに(新たな)命を与えられるとしたら?
もし、その「失敗」や「異形」という本質そのものが、
むしろそれらを“何かもっと別のもの”へと変える力を秘めているとしたら?
言葉は自然な居場所を見つけ、意識の流れに身を委ねながら、新たな形を得る。
アルベール・カミュは、意味のない世界の中で“固有の意味”を探すことは不条理だと教えた。
だからこそ、私たちは自らの意味を創り、見出さなければならないのだ。
Up-Cycledは、まさにその試みである。
profile
1998年生まれのベルギーとチュニジアにルーツを持つ写真家。
イタリアを拠点にしながら世界各地を旅している。
『Finding Macondo』は、彼の情熱の結晶である。
主にフィルムで撮影し、私たちがもう一度戻りたくなるような、胸を締めつけ、夢想へと誘う瞬間を追い求めている。
彼は現実の中に潜む魔法を写し取り、自身の“現実を超えた村”を見つけ出そうとしている。
鷹巣由佳
世界中で共通する色の概念として各国で電話帳がイエローページと呼ばれ黄色の紙に印刷されていることに着目し、オンラインクラウドサービスの Google Photos に格納した画像を「黄色」と入力し検索した。
すると Google が黄色と判断した画像は、自身では思って いなかった色もヒットした。その写真を写真集として再編した。
私たち人間が予期せぬことは、有機的な空間においても AI(人工知能)による検索システムにおいても起こりうるのである。
自分が思っている色もまた、Google にとっても、誰か にとっては更に違う感じ方をするのかもしれない。
写真を撮ることには知らないことを知ることと同じ「発見」するという楽しさがある。
今ここで感じたことを記録し、予期せぬことに身を委ねつつユニークな行程を経て編纂し生まれた本作品は、私たちの日常に無限 に潜む不思議という存在について模索し続ける。
profile
グラフィックデザイナー、写真家、アーティスト。
2021年に創設されたKYOTOGRAPHIE×Ruinart「Ruinart Japan Award」初代グランプリ、2023年 キヤノン GRAPHGATE入賞、第55回富士フイルムフォトコンテストフォトブック部門審査員特別賞など受賞。
2021年フランスにてアート・レジデンシー・プログラムに参加。2022年KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭にて個展。
リソグラフや古典印画技法と現代的な印刷技法を融合するなど実験的な試みや、AI等の身近な先端技術、偶然や確率考現学的観点から「予期せぬ予期」を探る作品制作。
自身で手漉き和紙制作×写真プロジェクトpapie pojagi、持ち運べる展示本:mille-pèlerilleを進行中。写真集などを世界各国のアートブックフェアで販売・展開
夢無子
このシリーズは、戦争の続くウクライナで撮影されました。
戦争が訪れると、世界は引き裂かれます。大地も、壁も、天井も――あらゆるものが暴力によって穿たれる。
ミサイルはただ破壊するだけではなく、断片化します。数千もの鋭い金属片が四散し、直接の直撃を受けていなくても家々を貫きます。
ある小さな村では、1,200軒以上の屋根が修復を余儀なくされました。
穴は至るところに残り、その傷口から雨や風が自由に入り込むのです。
しかし――穴は「見る」のです。
私は破壊によって生じたその裂け目――文字通りの虚無――を通して撮影を始めました。
それをレンズとして用い、日常が続いていく姿を見つめるために。市場で玉ねぎを売る男、鍋と記憶の残る台所、傷だらけでもなお立つ建物。
それらはスペクタクルではなく、耐え続ける日常の断片です。
ひとつひとつの穴は傷です。けれど同時に、それは証人でもある。静かに、頑なに、生活が続いていく様を見守る。
破壊を通してなお、人間の強靭さを切り取る。
戦争はすべてを壊す。けれど、それでも――
戦争と戦えるのは、日常です。
profile
夢無子は、中国生まれ。80ヵ国を旅し、スーツケースひとつで世界を漂うヴィジュアルアーティスト。
写真・映像・インスタレーションを横断し、現実と夢、記憶と身体のあいだに潜む感情をすくい上げる。
東京写真美術館、Paris Photoなどで発表。写真集『DREAMLESS』を刊行。戦争や孤独、自然など現代の痛みを詩的に翻訳し、広告や映画など多領域でも活動。
「無=すべて」という逆説のもと、美と苦しみ、生と死の境界を漂う。